年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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修理靴はりんご?

第09回 2005年度 受賞作品
最優秀作品
作者名:山口 豊
所属企業:㈱銀座ヨシノヤ 山形大沼店

記事(紹介文)

 
 お客様から「ヨシノヤの靴は履きやすい」とよく言っていただく。有難いことだと思いつつ、私は必ず「店員が嫌がるくらい、あれもこれもと履いてみてください」とお答えしている。身に着けるもので、靴ほど選ぶのが大変な物はないと思っているから…。
 ある日、「今日は見せてもらうだけ」と来店されたお客様。見れば当社の靴を履いている。そこで、「今お履きの靴を磨きますから、その間いろいろ履いてみてください」とお勧めし、靴磨きをしながら何足か試していただきました。私の決まり文句を言いながら話していると、外国で求めた靴の修理ができずに困っているとのこと。そのときは何気なく、一度見ますから遠慮なく持ってきてくださいとお答えしました。暫くしてお客様は磨かれてきれいになった靴を見て、とても喜んで帰っていかれました。靴は買わずに…。
 忙しさも一段落したある日の午後、お客様が「ああ、今日はいらっしゃったのね」そういいながらお店に入ってこられました。就任して間もない店でまだお客様の顔と名前が一致しないので、このお客様と何を話したのかすぐには思い出せないまま、会話が始まりました。
話すうちに、靴を磨いて喜んでいただいたこと、外国で求めた靴の修理に困っていたお客様であることを思い出し、早速修理靴をお持ちになったのかと思っていると、お客様は袋からりんごを一つ、二つと私に差し出し、「これは修理靴のお礼ね」そういってニコニコ笑っています。
 まだ靴はお預りしてもいないのに何故? 今日は持ってきていないけど、あの靴は大好きな靴で、どこで聞いても「修理できない」と言われていたけれど、「とにかく預かってみましょう」そういった私の一言がとても嬉しかったのだそうです。まだ預かってもいない修理靴、そのお礼のりんご。あの時靴を磨いて喜んでいただいたのだと思ったのですが、思い入れがある靴が直るかもしれない、直るかどうか分からないが預かってもらえる、そんな思いの笑顔だったことがわかりました。
 「今日はお礼だけ。今度修理していただく靴を持ってきたとき、あなたが嫌になるほど沢山履いてみて新しい靴を買うわね」。
お帰りになるお客様の後ろ姿とカウンターの上のリンゴを見ながら、何度修理しても履き続けていただける靴を見つけてさしあげようと思ったのでした。

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