年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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勇気をありがとう

第10回 2006年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)


 買い物好きの私が、へこんで出られなくなった時期がある。
 デパートの化粧品売り場や婦人服売り場を通っても、販売員が声をかけて来ない。たとえ手に取ってみていても、何かたずねようと見回しても目が合わない…というか、目をそらされてしまう。買い物客に声をかけず、目も合わせず売ろうともしない。こんなことがあるのかと驚き、そして落ち込んだ。実を言うと、16年ほど前に私は交通事故で車椅子の生活になった。2年間の寝たきり生活の後、気を奮い立たせてデパートや専門店に出かけたが、その都度落ち込むことばかり。
 以前、売り場を通れば煩わしいくらい声をかけられたのがウソのように、車椅子の客というだけで無視される。私は打ちひしがれたが、何故そんなに接遇になるのか訊く勇気はなかった。
 そんなある日。ある売り場で事件に遭遇した。通りがかりの女性客が私に、聞こえよがしに「車椅子なんかで来るトコじゃないのに、邪魔なのよ」と言った。すると近くにいた男性の店員さんがサッと走り寄って彼女にこう言ったのだ。「お客様、毎度有難うございます。当店はどなたにもお買い物しやすいように心がけておりますが、何か問題がございましたか」。「あらぁ、車椅子がじゃまだってだけよ。せっかくイイ店に来ても気分壊れるじゃない」。
 すると、その彼は突然大きな声で、「お客様、お帰りの出口はあちらでございます」と言い、様子を見て近くに来ていた別のスタッフと2人で、わめきたてるその女性を連れ去った。しかも私に向かって、「お客様、ごゆっくりお買い物下さいませ」とひと声かけて。突然見知らぬ人から投げつけられた言葉の暴力と、そこから救ってくれた店員さんの行動に、私は戸惑いながらも叫びそうになるほど嬉しかった。
 涙で霞んだ目で、何を見て買ったかも忘れたけれど、会計の時に「さっき、あちらで担当の方がご親切にして下さったのでお礼を言いたいんですが」と最前のスタッフを呼んでもらうと、「お客様、嫌な思いをおかけして誠に申し訳ございませんでした。なかなか行き届きませんでご迷惑をおかけしております。次からは遠慮なく店の者をお呼び下さい」と行き届いた挨拶である。そこで、「さっきのお客様から苦情でもあった時には私に是非ご連絡下さい」と名刺を出すと、「お気になさらないで下さい。お客様にもいろいろな方がいらっしゃいますが、当店は私どもスタッフの判断を上の者も理解してくれますから大丈夫です」と爽やかな笑顔で言った。
 それが契機になってこの店の店員さんとよく話すようになり、私は買い物に行った時の周りの対応が怖くなくなった。車椅子の客に対しては、<対応の仕方がわからない>から目を逸らせてしまう店員さんがいるということも分かった。
それにしても、判断力と行動力、そして客に対しての決然とした態度を取れる店員さんとの出会いのおかげで、私はものの見方まで教えられ、その後いくつかの雑誌などで〈ホスピタリティーある売り場対応〉や〈客の心得〉について情報発信するまでになった。それもあの時の店員さんとの出会いがあったからに他ならない。

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