年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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私の宝物

第10回 2006年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:時計販売店勤務

記事(紹介文)

 
 毎週1回は来店され、商品を見て帰られる男性のお客様がいました。必ず平日の午前中に来られて20分くらいずっと時計を見ているので最初の1ヶ月はご来店の度に声かけをしていました。ただ、ほとんど反応がなく正直なところ(ただの暇つぶしかな。時計を買うような感じではないし)と勝手に決めつけている状態でした。だからお客様がどんな商品を探しているのか、どんな時計が欲しいのか、全く分かりませんでした。話しかけても反応が返ってきません。来店が午前中とあって、たいてい1人体制で自分しかおらず、他のお客様も来店されるので、その男性のお客様には声をかけずに終わった週もありました。
 そうこうしているうちに最初のご来店から3ヶ月位経ってしまいました。しかし、毎週来店されるということは、何かしら興味があって探しているものがあるのかもしれないと思い直しました。そう信じて声かけしてみようと思ってから4ヶ月目くらいにお客様の行動が変ったのを覚えています。今までは店全体を見ている感じでしたが、その時期からある特定のブランドだけをじっと見るようになりました。私も的が絞られたので接客がし易くなると思い、色々とそのブランドについて勉強を始めました。 
 そんなある日、いつものようにお客様が来店されそのブランドの前に足を止めたとたん、初めてお客様から話しかけられました。今となっては嬉しさのあまり何を最初に聞かれたのかなは覚えていませんが、その時の嬉しかった気持ちは鮮明に覚えています。
 その日を境に毎週1回のお客様の来店が待ち遠しくなり、しっかり説明できなくてはと私もそのブランドの知識が増えていきました。お客様もいろいろと話して下さるようになり、どんな物を求めているのか理解できました。残念なことにお客様のいちばんお気に入りのモデルは店頭になく、カタログを見ながらの話になっていました。そんな状態がしばらく続き、半年目くらいにお客様がいつも通りに来店され、挨拶をした後すぐに「カタログでいつも見ていたモデルを取り寄せして。これに決めたから」とおっしゃったのです。販売が仕事の私は、売上げが取れた喜びと同時に、お客様と気持ちが通じたような嬉しい気分でいっぱいでした。
 すぐに注文をかけたのですが、あいにく在庫がなく少し時間がかかってしまいました。商品の納期を伝え、電話でお詫びを申し上げたところ、やさしい声で「今までずっと長い間悩んで決めたのだから、そんなのたいしたことないよ。高い時計だったし、残りの人生で最後まで使う時計を買おうとしていたから。あなたも毎回付き合ってくれてありがとね」とおっしゃっていただき、本来ならこちらが「ありがとう」という気持ちなのに、このようにお客様から感謝の言葉をいただくと、めげずにがんばって良かったと思いました。そして、最初に暇つぶしだろうかと思ってしまった自分が恥ずかしくもなりました。
 私は商品を販売し、お客様は購入する。この関係は変わりませんが、人の思い入れ、誠意といった人間らしさも販売業にはとても重要なんだと身をもって体験できました。
 お渡し後も「時計調子いいよ!」なんて声をかけてもらったりもしていました。別の店に異動になったので、そのお客様に会うこともなくなりました。今の場所で同じようなお客様を何人作れるか、すべてのお客様に気持ち良く帰ってもらえる接客を心がけ、気軽に声をかけてもらえる私になろうと思います。また、「ありがとう」がもらえるようにがんばりたいと思います。お客様の「ありがとう」は私の宝物です。

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