年度別受賞作品
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一期一会~パンに感謝をそえて・・・

第10回 2006年度 受賞作品
入賞作品
作者名:笹部興子
所属企業:㈱ドンク 上本町近鉄店

記事(紹介文)


 ある雨の朝でした。
 開店してから間もなく喪服を召されたご婦人が何点かのパンをご購入してくださいました。いつも通りいつものように私は手早くパンを袋づめし、笑顔で
「有難うございます。またどうぞおこしくださいませ」と申し上げました。
 するとその方は涙をこらえた目をされ
「私の父はドンクのフランスパンが大好きでこれを今日お棺に入れてあげるんです」とおっしゃいました。私は「えっ」と声をあげてしまい、その方の悲しく優しい瞳を見つめました。
 するとこう続けられました。
「あなたですね。父はいつもフランスパンを買いに行ってお店でいつも話し相手をしてくれる女性に元気をもらうんやと話していました。あなたは毎日毎日100人以上のお客さんを相手になさっているからもしかしたら覚えていないかも知れないけれど…。入院もイヤでわがままな父でしたが、ここに通うのだけはマメでね…」と。
 私は「ハッ」と息をのみました。三日に一度はフランスパンとレーズンバンズを買いに来てくださっていたご老人を思い出したのです。その方はいつも映画とカラオケの話を楽しそうに私にしてくださいました。
「昨日は夜遅くまでヘップバーンの『ティファニーで朝食を』を見ていたんですよ…」。
「私もあの映画を大好きです」。「『慕情』は何度観てもいいなぁ。朝までかかって観てしまいましたよ」。「じゃあ、寝不足ですね…」。「涙そうそうが歌えるようになったよ。『いつもいつも胸の中励ましてくれる人よ…』」と口ずさまれました。
 私は足がガクガク震えるのをこらえて
「ちがいます。元気をいただいていたのはわたしなんです」
と申し上げました。その方はにっこりとほほえまれて
「ありがとう」
とおっしゃいました。
「父にそう伝えます」と…。
 私は毎日たくさんのお客様と出会い、たくさんのパンを販売しています。私にとってたくさんであってもお客様にとっては「特別なひとつ」であるのです。一期一会、よく口にする言葉ですが、ドンクでの仕事を通じて私は本当にその意味を知ることができました。自分は何てやりがいのある仕事をさせてもらっているんだろうと胸がいっぱいになりました。このことは製造スタッフにもすぐに伝えました。心のこもったパンを焼いてもらい、その心が私たち販売員を通してお客様に伝わるということを改めて感じました。
 これから歩むこの道も商品ひとつひとつに愛情を込め、そしてお客様への感謝の気持ちを決して忘れないことを心に誓いました。

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