年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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旅の思い出に

第14回 2010年度 受賞作品
最優秀作品
作者名:佐野友紀
所属企業:㈱オカダヤ 新宿東口店

記事(紹介文)


 ある日の夕方、お店も賑わい始めてきた頃です。大学生くらいのお客様がブラジャーのサイズを迷っている感じで見比べていました。「サイズお悩みですか?」とお声をかけてみました。するとお客様は声をかけられた事に少し驚かれた様子を見せつつ「そうなんよ。うちサイズどれにしたらいいか迷ってるねん。」と答えてくれました。この特徴のある話し方はもしや大阪弁?と思い、伺ってみるとやはり大阪の方でした。友達と東京に1泊2日で旅行に来ていて、下着を持ってくるのを忘れてしまったので、ちょうど通りがかりに下着屋があったので立ち寄って下さったとの事でした。
 まずはサイズを迷われていたのでサイズをお計りし、見ていたブラジャーでご試着をご案内しました。肩ヒモの調節やサイズがあっているかを拝見したいので横にあるベルでお呼び下さいとお伝えすると、「えぇ~ほんまですか? 着けたまま呼ぶんですか。」と驚かれていました。どうやら今まで下着屋でサイズを見てもらった事のないご様子。けれどもせっかく東京に旅行に来て我が店に立ち寄ってくれたこの機会に、是非旅行中の良い思い出になるようにお客様に合った商品をご紹介したいと思い、「ちょっと恥ずかしいですよね。でも正確なサイズもわかるので是非お呼び下さいませ!」と少し力を込めてお伝えしました。今まで接客したお客様の中で、やはり恥ずかしくて呼んで下さらない方もたくさんいらっしゃったので、ベルが鳴るかなあと不安でした。
 ドキドキしながら店内を周っていると、「ピンポーン」と試着室のベルが鳴りました。急いで試着室に向かうと、「多分サイズ大丈夫やと思うんけど見てもらえます?」とおしゃってくれました。大丈夫と思ったら呼ばない人もいる中でちゃんと呼んでくれた嬉しさを感じながら試着室に入り、サイズを拝見すると、少し小さそうだったので、サイズを上げてお持ちして再度着けて頂き、腕の見せどころの手直しをしました。前にかがんで頂いてお胸をすくうように持ち上げて肩ヒモを調整するとピッタリと入ってお胸をグッと持ち上がり、とても奇麗なシルエットができました。
 お客様も「うわー、ブラジャーってこうやって調節するんやね。初めて知ったわ。胸もこんなに丁寧に触ってもらって、うちこんなに胸あったなんて嬉しいわ」と飛び跳ねるかのように喜んでくれました。私もこんなに喜んでくれるなんて…と嬉しくなり、他にもお客様に合いそうな形のブラジャーをいくつかご紹介し着けて頂きました。どれもピッタリと合い、お客様もこんなにブラジャーによって違うんやね。と驚いていらっしゃいました。
 試着も終わり、「たくさん」着けて頂いたなあ。お客様はどれを気に入って頂けたかなと思っているとお客様が出てこられ、すぐに「全部買いますわ」と一言。全部で4つも着けて頂いたので一瞬聞き間違えかと思っていると、「こんなに丁寧にうちの胸見てもらって感動したねん。どれも気に入ったから買ってくわ」。そう言ってお客様は旅行は1泊2日なので買うのはひとつでいいのに4つも購入して下さいました。「お姉ちゃん、ほんまにありがとう。また東京に来ることがあったら絶対に寄るわ。あ、ちょうど友達も来たわ」と友人の方に走って行かれました。
 お客様の背を見送りながら、何だか心がとっても温まりました。今度は私が大阪に行ってみようかとじんわり思いました。

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