年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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二つの贈り物

第14回 2010年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)


 「あ~あ、またこれの時期かぁ…。面倒くさいんだよねぇこれ……」
 メールボックスに入っていた連絡報を手にした私が心の中で呟いた一言です。このモールが協力して、毎年行っている独自の活動の一環で、中学生・職場体験学習というものがあります。これは近くの中学校の生徒たちが、実際にこのモールの中にある専門店で、3日間仕事をしながら、仕事の楽しさや大変さを学ぶというものです。
 「断りましょう。作業や仕事が忙しいのに、中学生に付きっ切りなんて無理ですよ」とスタッフの一人が言いました。〝うんうん〟と言わんばかりに他のスタッフも頷きました。「やっぱり断っちゃぉ。余計な仕事をやらなくとも済むわけだし」私もそう決めました。
 それから数日後、モールの担当者が声を掛けてきました。「例の中学生の職場体験の件ですが、ちょっと考え直してもらえないですか?」というものでした。私はその時はっきりお断りするつもりでしたが、気がつくと「はぁ…、じゃあ一寸考えてみます」と言ってしまいました。
 その時なぜ断らなかったのか今も分かりませんが、その日の夜、自分が中学生だった頃のことを思い出し、そして〝働く事がどういう事なのかも分からずに大人になったら?〟とか〝今、仕事が続けられている自分はいったい…〟。そんな事をずっと考えていましたが、ともかく中学生の職場体験学習を引き受けることにしました。
 当日、緊張した様子の中学生の女の子が2人お店にやってきました。2人は照れながら恥ずかしそうに挨拶をしましたが、私にはとても新鮮で可愛らしく見えました。1日目はお店の紹介や仕事の内容を説明して、それから清掃をしてもらいました。2日目は〝声出し〟。つまり、お客様への挨拶です。そして、おたたみの練習ですが、初めて商品に触れてやや興奮気味の2人でした。3日目はレジカウンターの中で、お包みをすることになりました。お客様から「頑張ってね」と言われ、2人はちょっと嬉しそうに頬を赤らめていました。
 そうして3日間の中学生の職場体験は修了しました。正直、最初は面倒くさいと思っていましたが、中学生と一緒に過ごした3日間は、今思えば逆に考えさせられた3日間でした。「仕事の楽しさ」「仕事の難しさ」など一生懸命に取り組む中学生の姿から、スタッフの1人が「初心を思い出したなぁ」と言いましたが、皆同じ気持ちだったと思います。
 しかも、最後の日にこんなことがありました。2人が商品を買ってくれると言うのです。1人は1900円のスカート、もう一人は2100円のバッグです。私は思わず「先生にいいって言われてるの? 大丈夫なの?」と聞くと、2人はニコニコしながらうなずいて小さな財布からお金を取り出しました。支払うと財布にはもう僅かな小銭しか残っていなかったようです。
 私が「1ヶ月のお小遣いは?」と聞くと1人の子は「月に1000円」と答えましたが、もう1人は「いつもお小遣いはないんだけど…、今日はお母さんに言って」と小さな声で言いました。「お買物をするとお小遣いは無くなっちゃうわね」というと2人は「いいんです。欲しいんだもん! 下さい」とキラキラした笑顔でそう言いました。
 2人は財布が空になったのにも拘らず、とっても満足げな表情で帰っていきました。私はこの職場体験学習で中学生から2つのことを学びました。ひとつは、仕事の楽しさを教える場がなければ子供たちは学ぶことができない、ということです。つまり「今の若い子は仕事をすぐに辞める」と聞きますが、その前に自分たち大人は本当に〝仕事の楽しさを子どもたちに教えようとしているのか〟ということです。現に私も〝面倒だから〟という理由で断ろうとした1人でした。
 もうひとつは、この中学生の目を見ていて分かりました。お客様は(とくに女の人は)商品と一緒に〝ときめき〟を買っているということです。いつもはお小遣いをくれないお母さんも娘の職場体験が洋服屋と聞いて、きっと欲しいものを見つけてくるだろうと、察して、その日は特別にお金を持たせてくれたのだと思います。
 私たちの仕事がお客様に〝商品〟と〝ときめき〟を与える仕事だということを、この可愛い中学生が改めて教えてくれました。

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