年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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穏やかな笑顔

第14回 2010年度 受賞作品
入賞作品
作者名:首藤貴子
所属企業:㈱アスプルンド 宮崎店

記事(紹介文)


 「ちょっとやめなさい」「ガシャンってなるから触らないで」
毎日一度は店の中で聞こえてくる言葉。キッチン雑貨の専門店である、私が働く店のお客様の中心は20代から40代の女性である。少子化社会とは無縁かのように、小さなお子さんを連れた若いお母さん方も多い。
 キラキラかわいい笑顔や、くるりんとした瞳で見つめられると、こちらも自然と笑顔になり、疲れも癒される反面、大声で泣き喚いたり、商品を触って遊んで壊される危険性も増してしまう子供や赤ちゃんのご来店。冒頭のようなお母さん達の一喝もほとんど効果はなく、怪我がないよう、商品の破損がないよう目を配り、気を配る日々。注意を促していると「ほら、おばちゃんに怒られたでしょ」と母親に言われてへこんだりする事もしばしばである。
 本来子供好きな方だが、正直お店では疎ましく思うこともあった。ある平日のこと、5歳くらいの男の子と赤ちゃんを連れたお母さんに商品の説明をしていたが、男の子は全くじっとしておらず、ガシャンガシャンと商品で遊んでいた。母親が咎めるが全くきく様子もなく、私もあきらめかけていたところ、スタッフの1人が男の子の相手をしてくれ始めた。私はチャンスとばかりに購入へ誘うべく、クロージングへと話を進めかけた。
 その時、赤ちゃんがぐずり始め、あやしてはみたものの、次第に店内中に泣き声が響きわたった。終わった…。私は確かにそう思ってしまった。母親も泣き止まない子供にオロオロしながらあやしていると、男の子と相手をしていたスタッフが赤ちゃんをあやし始めた。徐々に赤ちゃんが落ち着き、母親の表情も少しホッとゆるみ、何度も「ありがとうございます」とそのスタッフに感謝を伝える中で、毎日毎日子供の世話で、買い物もいつもゆっくり見ることが出来ず、今日も朝からずっと1人でイライラしていたので、気分転換に来店されたという胸の内を明かされた。
 その後、ゆっくりそのスタッフと話をしながら商品を購入され、何度か頭を下げながら帰っていかれた。その笑顔は来店時と全く違う、穏やかなものだった。私の胸には温かいものが広がりながらも、苦い痛みが染みていた。
 そのお母さんだけでなく、「お買い物」がお客様にとってモノを買うだけの行為以上の意味を持っていることも少なくないと思う。限られた時間の中では全てを汲み取りにくく、毎日の業務や作業の忙しさからなどで「販売」のみに走ってしまいがちだが、お客様の本当に満足された笑顔を向けていただける「接客」に努めていきたいと私は思った。

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