年度別受賞作品
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スーパーのYさん

第14回 2010年度 受賞作品
入賞作品
作者名:白石博子
所属企業:一般

記事(紹介文)


 私は、以前、塾で講師をしておりました。塾の前に、スーパーマーケットがありました。
 家庭人でもある私は、塾の講義の合間に、そこで買い物をしていました。時には、お腹をすかせたまま塾に来る生徒のために、パンなどを買いに走ることもありました。
 そのスーパーに、Yさんという店員さんがいました。私が、レジでお金を払うために、財布を出している間に、品物を袋に入れるための台のところまで、いつもいつも、私の買い物かごを運んでくださっていました。「重たいのに、いつもすみません」というと、かわいらしい笑顔で二コッと笑ってくれるのが常でした。
 ある日。珍しく他にお客さんが、後ろに並んでいない時がありました。Yさんが、「先生は、いつも大変ですね」と、話しかけてくれました。「そうでもないですよ」と返すと、「ここに来る時は、猛ダッシュで来るでしょう。すごい勢いで走ってくるでしょう。だから、すごく忙しいんだなって思ったんです。
 私が時間に追われ、わずか数メートルの距離の塾からここまでを走ってくることを知ってくれていたのです。彼女は、そんな私に気遣いをしてくれていたのでした。商売を抜きにして、時間短縮の手伝いをしてくれていたことが分かりました。胸がいっぱいになりました。彼女の真心をただのサービスだと勘違いしなくて良かったと心から思いました。
 それから、そのような短時間の、しかし、心の温まる交流が続きました。そのうち、塾は業務の都合で引越しをすることになりました。もう、Yさんには、会えなくなるなあと思っていました。
 やがて、私の家の近くに、新しいスーパーが出来ました。新鮮で安いと評判のスーパーのチェーン店でした。ですから、買い物は、そこですることになりました。ある時、魚を見ていると、「先生」と呼ぶ声。ここら辺に生徒はいないはずです。顔を上げると、Yさんでした。全くの偶然ですが、Yさんはこのスーパーに勤め始めたのだそうでした。
 今は、私は、塾の講師とは、別の仕事をしています。時間にゆとりがあるので、スーパーに走りこむことはありません。それでも、Yさんは、私が行くと、やっぱり、買い物かごを、台まで運んでくれるのです。
 私は、いつも「重いのにありがとうございます」と言い、Yさんは「お買い上げありがとうございます」と笑顔で答えてくれます。Yさんがレジに立つと、皆さんが混んでいてもそこに並びます。彼女の優しさが人を惹き付けているのです。Yさんの笑顔と優しさは、このお店の宝だと思います。会うのが楽しみなのは、私だけではないのです。

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