年度別受賞作品
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闘う女のパワードスーツ

第16回 2012年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:中村 司
所属企業:㈱銀座マギー 羽田ビッグバード店

記事(紹介文)


 「私のパワードスーツ(強化服)をお送りください」というゴーサインが出たのは、あの日から3ヶ月がたった6月末のことでした。「よし、闘う女のパワードスーツよ飛んで行け!」
 そのお客様は3月の初めにご来店になり、お仕事でつかうスーツを2点購入されました。
 スカートの丈直しを承って東北地方のご自宅にお送りする準備をしていた時にあの日…、3月11日の震災に巻き込まれてしまったのでした。
 お客様と全く連絡がつかない日々が続きました。以前よりお客様ご本人よりメールでやり取りをするお許しは頂いているものの、先方の状況もわからず、無神経に何度もお客様の携帯にご連絡差し上げるのもはばかられ、災害伝言ダイヤルにメッセージを残してひたすらご連絡いただけるのを待ち続けました。
 定期的に伝言ダイヤルの確認だけは欠かさずおこなっていたある日、私の入れた伝言が消えていたのです。もしや、お客様が伝言を聞いてくださったのでは? と期待していた翌日に、お客様から無事を知らせるメールが一斉送信されてきました。幸い本当にありがたいことに、お客様ご本人にもご家族にもお怪我はなく、ひと安心しました。しかし、仕事場も大変なようで、ライフラインの復旧も目処が立たない状態とのこと、「長くなるかもしれませんが、お洋服は預かっておいてほしい」というメッセージをいただきました。
 羽田空港のショップにいらっしゃるお客様は、当たり前ですが、ほとんど飛行機に乗ってくるか、乗るために来る方たちです。2~3時間後には、北海道や九州の地に立っている方が圧倒的に多いのが特徴です。心も体も環境もお住まいのあるそれぞれの地方の感覚をそのままお持ちになってお店を訪れていらっしゃいます。東京に居ながら、日本全国の方々と同じ時間に触れ合うことができるのが羽田空港のショップなのです。
 東北の地の厳しい環境の中でもスーツをお召しになって凜と立つお客様のイメージが浮かび、「お預かりしたパワードスーツは、常に発進準備をして、いつでもお客様のゴーサインをお待ちしております」とメールを差し上げました。
 男性にも「勝負服」はありますが、女性の場合はちょっと違うような気がします。ただの洋服ではなく、お化粧と同じ様に体の一部に成ってしまうような、外見だけが変わるのではなく「心がちゃんと洋服を着る」ことで、より大きなパワーを発揮している気がするのです。
 「私のパワードスーツをお送りください」の連絡をいただいた時のうれしさは言葉では言い表せませんでした。輸送状況も、まだまだ過酷であろうとの想像がつきましたので、三重に箱を重ねショックアブソーバー代わりにスポンジを目いっぱい詰め込みました。最後に、東京の洋服屋の心意気も一緒に乗せたくて「絆」という文字を貼ってお送りしました。闘う女のパワードスーツは、お客様の次なる闘いの為に発進しました。
 後日、スーツに身を固めた笑顔の女戦士の写真が送られてきました。Ⅴサインを高々と上げながら。

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