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お年寄りと社会をつなぐ買物

第05回 2001年度 受賞作品
受賞者インタビュー
作者名:森山志保
所属企業:一般

記事(紹介文)


第5回(2000年) 優秀賞 「お年寄りと社会をつなぐ買物」
森山志保さん

 最近、生まれて初めてファンレターを書きたいと思うような小説家でありエッセイストに出会いました。浅田次郎さんです。彼が描く市井で生きる人たちの不器用で朴訥な優しさや哀しさにはつい泣かされてしまいます。とかく暗いニュースが多い中、たとえそれがフィクションであったとしても、そんな人のぬくもりに触れると、すべてにやさしくなれそうな気がしてきます。
 今回のえっせいに書いたスーパーの方も浅田ワールドだったかもしれません。レジ係の人のサービスというかとっさの心遣いは、サービスマニュアルや社員教育というより、その人の生き方のあらわれだったと思います。
 休日ともなると福岡の天神には九州全域からショッピングに人が集まってきます。しかし地元では休日は郊外のSCに出かけ、買い物を楽しむという人が少なくありません。ただそれは車のある人の話で、車を持たない人や高齢者にはあまり関係がないことです。むしろSCの出店で昔からあった近所の店が閉店してしまい、買い物をする店が減ってしまったということさえあるくらいです。
 まだまだ元気で、おしゃれを楽しみ、いつまでも社会とつながっていたいと思ってはいても、交通の便の悪い地域に住む高齢者は行動範囲が極めて限られてしまっています。それは都会で考えるよりはるかに狭いものです。また生前の祖母のように一人暮しのお年寄りも増えています。その方たちにとっては日々の買い物が大きな楽しみであり、人とのふれあいの場になっているのです。祖母にとっても買い物が社会とのつながりだったと思います。人の世話にはなりたくないという性分だったので、できるところまでは一人でやっていましたけれど、近くで支えてくれる人がいたからできたことで、その最も身近な例が普段の買い物で出会う方々だったと思うのです。
 独身で仕事をしていますと、日常的な買い物は最小限で済みます。また20代の頃のようにショッピングを楽しむということも少なくなり、その分、気持ちよく買い物をしたいという思いが強くなっています。これだけ店があり、同じ商品、同じような商品が並んでいると、どの店で買うかより、誰から買うかに店選びのウエイトがシフトしてきています。自然な接客態度がその基本ですが、やはり同年齢の方が話しやすいですし、洋服なら似合う・似合わないをはっきり言ってくれる方がいいですね。それから商品を何に使うのか、どういうときに使うのかといったことまで聞いてくれる方は相談しやすいので、そこまで理解した上で薦めてくれるものならお任せしようと思ってしまいます。
 お店の方にお任せするといえば、呉服には祖母の代からのなじみの店があります。代々続く地元の店で、こればかりは他の店を考えたことはありません。呉服屋さんに家まで来てもらい、白生地を好みの色に染め、絵柄を選んで…という買い方をします。1枚の着物が仕上がるまでに何度も何度もお店の方と顔を合わせ、こちらの希望とお店の方のアドバイスを交えながらできあがった着物への思い入れはまたひとしおです。祖母や母を通して「着物はこういう買い方するものだ」と伝えられてきましたし、同時に伝えられてきた店はわが家の文化と言えるでしょう。随分と古めかしく、早く・安く・簡単にという現在の傾向とは対極にあるような買い方ですが、ひとりひとりのお客様の声に耳を傾け、納得のいく商品をお届けするという販売スタイルは小売業の原点ではないかと思います。
 店が商品を手渡すだけの場所であるならば、それにとって替わる機能がでてくるでしょう。
ネット販売や通販といった便利な買い方のニーズはますます高まっていくでしょう。しかしその一方で、店でのふれあいを生活のよりどころにしている人や、そうせざるをえない人がいるのも事実です。サービスを形にすることはもちろん、生活の基点・心の基点としての店舗をこれからも存続させていってほしいものです。

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