年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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心にしみた「ありがとう」

第02回 1998年度 受賞作品
最優秀作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:パン販売店勤務

記事(紹介文)

 ある日のできごとでした。
「進物用のクッキーがほしいのですが、この店にありますか」と尋ねてきたお客様がいました。あいにく私たちの店はパンを売っているだけで、進物用のクッキーは扱っていませんでした。
 「申し訳ございません。当店では進物用のクッキーは取り扱っておりません。すぐ近くに姉妹店がございます。そちらの店でしたら進物用のクッキーを置いておりますが・・・」。初めはそう言って、姉妹店でのお買い上げをお勧めしました。
 しかし、そのお客様は、私たちの店が入っているデパートの別の階でまだたくさんのお買い物があると言い、少し〈困ったな〉という表情をされました。確かに、今たくさんの買い物をされ、多くの荷物を持ち、姉妹店へ行くのもしんどいでしょうし、かと言って、まず姉妹店に行ってクッキーを買い、またこのデパートへ戻ってこられるのも、いくら近い店とはいえ、やはり大変だろうな…そう思うと、「もしよろしければ、お客様が別の階でお買い物をされている間に、こちらで進物用のクッキーをご用意させていただきましょうか…」とそんな言葉が私の口から出ていました。
 そんなわけで私は、すぐに姉妹店へ走って商品をご用意し、お客様が買い物を終えてこの店に戻ってこられるのを待っていました。お客様は「そちらの店へ行く時間を省けた分、別の買い物をゆっくりすることができたわ…」と言って本当に喜んで下さり、私もとても幸せな気分になりました。
 それから数日たったある日レジでお会計を済まされたお客様が、「この間は本当にありがとう…」と私にお声をかけてくれました。ハッとしてそちらを見ると、すぐにその時のお客様だと分かりました。「もう一度、お礼が言いたくて…」とそのお客様はおっしゃいました。「いえ、とんでもございません」もっと何か言おうとしましたが、それ以上言葉が出ませんでした。
 「ありがとう」という言葉が、何度も頭の中をかけめぐり、胸がいっぱいになりました。そして、「ありがとう」という言葉はなんて人を幸せにする言葉なんだろう…と思ったできごとでした。
これからも、一人でも多くのお客様から「ありがとう」と言っていただけるように、そして、そのことでまた自分がさらに幸せになれるように、お客様との「心のつながり」を大事にしてがんばっていきたいと思います。

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