年度別受賞作品
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第17回選評

第17回 2013年度 受賞作品
選評
作者名:  女優 檀ふみさん
所属企業:

記事(紹介文)


 昨年に引き続いて、二度目の大役です。
 昨年の経験から、(今年もまた、大変だろうな……)と覚悟してはいましたが、予想通り、いえ、予想以上に大変で、(やっぱり、お引き受けするんじゃなかった)と、途中で、何度も頭を掻きむしったことでした。
 ただの「えっせい」であるならば、甲乙をつけるのは、そう難しくはないかもしれません。文章のテンポや切れ、エピソードの新鮮さ、視点の面白さなどで、ある程度、ドライに点数をつけられるような気がします。何より、「だって、私、この文章が好きなんだもん!」と、開き直ったって構わないわけです。
 でも、その上に「あったか」という言葉がつくと、話は変わってしまいます。エッセイというのは、不平不満や、不条理や不幸が上手に書かれていると面白い……というのが私の持論なのですが、仕事やお店や、お客様とのおつきあいの中で感じた「あったか」に、「不」という字は「不」似合いです。
 誠実、思いやり、信頼、努力、笑顔、やりがい……。こうしたポジティヴなキーワードに甲乙がつけられるものでしょうか。
 「お客様とのあたたかいエピソードが多く、何を書こうかと悩めたことに対して、とても幸せを感じました」
 最後にそう書かれていた文章がありました。
 新星堂の田口瑞希さん。同じ新星堂の梶原僚さんを入選としたため、選外になってしまいましたが、なんて素敵な言葉なのでしょう。
 そういえば、新星堂さんからは、昨年も二人が入選。「一企業から多数の応募があるところは、みな作品が粒ぞろい」とは、昨年書いたことですが、こうしたエッセイを書くことによって、お客様のお顔や言葉を心にとめ、さらにお客様とのつながりを深めていくという、良循環なのでしょうか。
たくさんのエッセイを拝読して、つくづく思ったのは、こんなにも素敵なお客様がいるということでした。そして、そのお客様に応えようとする、こんなにも素晴らしい店員さんがいる……。捨てたもんじゃないぞ、日本。
 優秀賞「紙の点滴」の佐々木幹雄さんは、八十五歳の女性のお客様と、五年越しの文通のおつきあい。二人の間に行きかった手紙の数は、何と六百通を超えているといいます。
このお客様(信子さん)が、凛としていて、なんともカッコイイのです。そしてお客様をお迎えする佐々木さんも、誠実で頼もしくて、信子さんの騎士(ナイト)のよう。最後の、「紙でできた点滴なのでございます」という言葉がきいていて、洒脱な一篇となっていました。
 もう一つ、佐藤理奈子さんの「ぬくぬく・えっせい」。こちらとお客様とのおつきあいは、あまり深くはありません。でも、裸のおつきあい。温泉で一緒になるおばちゃんたちの会話がイキイキしていて楽しく、こちらまで、温泉につかっているような、ぬくぬくした気分になってしまいました。こういう力の抜けたエッセイもいいかしら……と、これは、ひょっとして佐藤さんの術中にはまってしまったのかもしれません。
 温泉ではなく仕事で汗を流した話を書いてくださった、他の大勢のみなさん、ごめんなさい!
 岡本桂子さんの「やさしいアンテナ」は、自分自身ではなく、後輩スタッフのお話。
「お客様カード」の扱いという、お店の裏の話が書かれているのですが、老妻を亡くして悄然としている「お客様」の顔が見え、来し方のお店とのつきあいや、人生までもが見え隠れし、最後にはホロリとさせられてしまいました。
「彼女のやさしいアンテナは、ちょっとした表情やおっしゃり方からご主人様のそんな想いをキャッチしたのだ」
 後輩のやさしさをそう表現した岡本さんも、素晴らしいアンテナの持ち主。
 本当に、要は「やさしいアンテナ」なのだと思います。「えっせい」を「あったか」くするのも、世の中を「あったか」くするのも。

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