年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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再会

第19回 2015年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  五十嵐絹枝
所属企業: ㈱イワキ

記事(紹介文)

 「はぁっ、このお名前は・・・」
思わず声を出してしまったのは、20年以上も待ち続けた名前にやっと出会えたからだった。そうあれは20数年前、私が入社したての頃によく見かけたご家族の一番幼い女の子・・・。
まだ緊張しながら店頭に立っていたあの頃、度々見かけるご家族がいた。お祖母さん、お父さん、お母さん、小学生のお姉さん、そして女の子。なぜ記憶に残っているかというと、いつも一緒で、誰もが楽しげで、にこやかにお店に入っていらっしゃるからだ。こちらも思わず笑顔で、「いらっしゃいませ」とお迎えしてしまう。
皆さん眼鏡をご愛用いただいていたのだが、ついに幼い彼女が眼鏡を作ることになった。彼女も緊張していたのか、途中で化粧室に案内することになった。その途中、私なりに声をかけてあげようと思い、「眼鏡をかけても、そのせいで眼が悪くなることはないから安心してね」
すると彼女はやっとニコッといつもの笑顔を見せた。あの時の、日焼けした、はにかんだ幼い笑顔は今でも忘れられない・・・。数年すると勤続先の異動もあり、そのご家族にお会いすることがなくなってしまった。でも初めて覚えた、あの和やかなご家族の名前はずっと心の中に残っていた。
 あれから20年後、私はまた異動により同じ店舗に帰ってきた。時々顧客カードに当時の初々しい自分の字を見つけると、あの頃のことが蘇る。
ある日、急遽コンタクトの担当に入った。偶然手にした顧客カードに彼女の名前を見つけた時、思わず冒頭の声を発してしまったのだ。まもなく彼女がやってくるのかと思うと、心の準備も間に合わず、鼓動が早まるばかりだった。
 ついにその時がやってきた。視界に入ってきたのは、すっかり大人びたけれど、あの時と変わらない期待通りの彼女だった。嬉しさを抑え、まずは普通に接した。話しかけたい、でも急に話しても気味悪がられるのではないかと葛藤した。でもやっぱり・・・。お会計が済んだタイミングで恐る恐る話しかけてみた。
「あの、突然こんなことを言って、驚かれるかも知れませんが、私、20数年前に、実はお会いしているのですよ」
彼女は思いもよらない言葉に動きが止まった。すかさず話を続け、当時ご家族の和やかな雰囲気がとても印象的であったことを伝えた。すると、ゆっくりとあの頃を思い出したようで、彼女も話し始めた。
 幼い頃、家族みんなで都心へ出かける時は、百貨店で買い物をして、眼鏡屋に立ち寄り、すぐ近くの寿司屋で食事をするというのがお決まりのコースだったのだという。それは幼い姉妹だけでなく、みんなが楽しみにしていたので、自然と顔に表れていたのではないかと、彼女は笑った。あの笑顔の理由を初めて知り、私も微笑ましくなった。彼女も忘れていた記憶が蘇り、私が懐かしい思い出の引き出しを開けたことに感謝してくれた。私も、幼い彼女が私の旧姓を覚えていてくれたことに感謝した。
 後日、商品受け取りの際もお会いした。先日彼女はあれから自宅に戻り、さっそく家族に私とのやりとりを話したとのこと。とても喜んでくださったようで、また家族で当時の思い出を振り返り、楽しい時間を過ごしたそうだ。それを聞いて、思いきって話しかけて本当に良かったと改めて思った。
 帰り際、彼女は「今度眼鏡を作る時は、ぜひまたよろしくお願いします!」と微笑んだ。その笑顔は、あの時の、はにかんだ幼い笑顔と変わらなかった。私も「こちらこそぜひ!」とその時を楽しみにした。

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