年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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おばあさんとのストーリー

第20回 2016年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  堀越一志
所属企業: ㈱東京鳩居堂

記事(紹介文)


 「堀越君。ちょっと商品届けてきてくれる?」
それは、私が入社5年目に池袋店へ異動してきた頃でした。
「かしこまりました。何かあったのですか?」
と店長に聞いたところ、お客様から電話があり、代金引換便にて注文した商品が違うということ、電話だと話がなかなか伝わらないので、お客様が注文したと思われる商品を届けてきてほしいということでした。
住所を店長から聞くと、お届け先はある高齢者施設ということが分かり、電車の中でどのようなところなのか想像しながら向かいました。
 施設に到着して、受付にて内容を伝えると、お客様の部屋に案内してくれました。部屋に入り、お詫びをしながら商品を見せると、
「そうそう。これだよ。間違いないよ」
「遠いところ、わざわざありがとう。とりあえず座ってください」と笑顔でおっしゃいました。恐縮しながら座ると、おばあさんはいろいろ話し始めました。
戦争の話、もうすぐ90歳だということ、家族が全員亡くなってしまい身寄りがないこと、年齢的に体が不自由なので、銀座や百貨店に連れて行ってもらうことが夢だということなど、話は途切れることなく続きました。
 そのうち、お届けした商品に話が変わり、
「この短冊で毎日、短歌を書いているのよ」「主人も息子も先に亡くなっちゃったから、思い出しながら歌を書いているの。今では生きがいだわ」
今までは商品を販売するだけで、その後の「ストーリー」というのを考えたことはありませんでした。しかし、おばあさんの話を聞いていく中で、この商品には、おばあさんの「日課」、また「生きる力」にもなっているという「ストーリー」が存在しているということが分かりました。
午後1時半頃に到着し、気付けば午後4時半をまわっていました。おばあさんに「そろそろ失礼させて頂きます」と伝えると、
「そうかい。長い時間付きあわせちゃってごめんね」
約3時間の間、おばあさんはまるで子供のようにずっと話をしていました。そして、帰り際にひと言、「また商品、間違えようかな」と小声でつぶやいていました。
 私は心の中で、「そんなこと言ったら帰れないじゃないですか。」と思いながら、施設を後にしました。
あれから、7年経ちますが、おばあさんは、今も同じ商品を注文し続けてくれています。
この経験以降、商品とお客様をつなぐ架け橋になるように、また、新しい「ストーリー」が生まれるお手伝いができるように日々、努めております。

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