年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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女心

第08回 2004年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:靴販売店勤務

記事(紹介文)

 
 本店のLサイズフロアに配属されて今年で3年目の冬を迎える。世の中の女性がこぞってブーツ選びを楽しむこの時期の接客に、私はいつにも増して気合が入る。
 女性のLサイズと聞くと、どんな印象を持つだろうか。かくいう私自身はSサイズ。入社当初は靴のサイズの違いに少なからず驚いたが、社内研修の折、自店の靴を持ち寄ったとき、周りに「大きい、大きい」と言われ、とても悲しく、恥ずかしいような、悔しいような気分になったのを今でも忘れたことはない。お客様一人ひとり、大なり小なりコンプレックスを持っていらっしゃる。女性なら当然、かわいくなりたいし、雑誌の特集に載るような旬のデザインが欲しいのは当たり前。でもLサイズというだけで、デザインは定番。色も黒茶。そんな失礼な話はない。さらにブーツとなると、サイズ以上に筒廻り、筒丈と問題は山積みになる。それに応えてこそ専門店。だからこそ余計に冬は必死になってしまうのだ。
 昨年9月に1人の女の子から葉書を頂いた。びっしりと文字で埋まったそれには、どうしてもロングブーツが履きたい思いが詰まっていた。高校生の女の子。スカートにロングブーツは彼女たちの流行には外せないアイテムなのだろう。26センチ・筒廻り40センチに合うブーツを探してあげたい。フロア中のブーツの筒を計り、合いそうなものを2点用意して早速お電話をしてみた。すると、「お店にはどうしても行けません」と泣きそうな声で言われてしまった。どうしても欲しいけれど、それより何より恥ずかしくて足を見られたくない。筒がもし閉まらなかったら…、それを人に見られるなんて耐えられない…、と。確かに少しゆったりめの筒希望だったので、同じ女性として気持ちは良く分かるつもりだったものの、靴ばかりは履いていただかなくては合わせようもなく、私は言葉に詰まってしまった。
 「考えさせて下さい」とのお客様の言葉に、ただうなづいて電話は切れた。このままでいいのだろうか…。でも、しつこくこちらから何か言って失礼になったり、傷つけてしまってもいけない…。私は安易にサイズだけ見つけて電話したことを悔やんだ。わざわざ葉書にしたのにはいろんな気持ちが込められていることを、もっともっと気付いて差し上げなければならなかった。
 さんざん考えた末、私も手紙を出した。お薦めしたい2点のブーツの絵を書き、各部位のサイズ、履き心地など、できるだけ細かく調べて書いた。どうしてもお手伝いしたい旨を添えて出したところ、女の子のお母様から電話をいただき、日時をお約束して御来店となった。
 当日、やっと会うことができた女の子は、ブーツに合わせるために買ったばかりだというスカートで来てくれた。何度も試し履きをした末、嬉しそうに鏡に姿を映しながら、「履いて帰っていい?」と言ってくれた笑顔がとてもかわいくて忘れられない。今年もそんな笑顔のために大奮闘だ。

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