年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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海を越えて

第08回 2004年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 いつもより少し忙しく仕事をしていたある日のことです。背後から突然声をかけられました。振り向くと、見覚えのある小柄なショートカットの女性が、「やっぱり平川さんね」、と私の名札を確認しながら挨拶してくれました。私もすぐにこのお客様を思い出し、とびっきりの笑顔で挨拶をしました。
 彼女は私が何度か接客をしたお客様で、いつもは私と同年代ほどの娘さんと一緒にいらっしゃるのですが、その日はお母様が1人でした。彼女は安心したような表情を見せ、「良かった。平川さんを探していたのよ」と、忙しそうな店内をチラッと横目で見て、申し訳なさそうな表情を浮かべて話し始めました。
 私はもちろん、少しも嫌ではありませんでした。こんなふうに私を探して声を掛けて下さったお客様は初めてでした。「こちらのお店では、インターネットなどでの商品案内はしていますか」という質問を投げかけられましたが、残念ながらそのようなサービスは現段階ではやっていません。私は謝った後で、その理由を尋ねると、話を続けてくれました。
 彼女の娘さんは今イギリスに留学していて、なかなか気に入った服が見つからないため、日本でよく買い物をしていた店でお母様が買って送っているのだということでした。そこで、お気に入りのブランドの服をインターネットを使って娘さん本人が選べたら…と考え、お母様が来て下さったのです。しかも、「うちの娘は平川さんに服を選んでもらってから、すっかりこの店が気に入ってるのよ」と続けてくれました。「また平川さんに選んでもらえたら、きっとあの子も気に入ると思うんだけど、一緒に選んでいただけませんか」。
 遠い異国に行っても、この店のブランドを求めて下さるお客様がいる! しかも私のことをそんなふうに良く覚えていてくれている! 私は感動で胸がいっぱいになりました。その頃の私はまだ販売歴3ヶ月ほどで、初めてお客様に『私』を必要とされた気持ちになり、心から嬉しく思いました。私は娘さんのイメージを思い出しながら、お母様と2人で洋服を選びました。店でイチオシのものや娘さんの好きそうなものを紹介し、選び抜いた自信のコーディネイトが決まりました。
 お会計を済ませた後、私はお母様に自分のメールアドレスを書いたメモを渡しました。「私のメールに何でも質問して下されば、スタイリングの相談にも乗りますし、新商品のご案内もさせていただきます」とメッセージをつけました。
 あれから何ヶ月かが過ぎた今では、娘さんと私はメールを通じてすっかり仲良くなりました。娘さんは4月に日本に帰ってくるそうです。「一緒にお茶でもしに行きましょう」と彼女は私を誘ってくれました。
 この店のブランドは海を越えることができました。そして、私と娘さんをつないでくれました。私は4月が待ち遠しいです。

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